平成19年12月28日
内閣官房IT担当室
電子申請意見箱担当 殿
  1. 氏名:井上 新
  2. 性別:男
  3. 年齢:51歳
  4. 組織名:名古屋税理士会熱田支部 支部長
         日本税理士会電子申告Q&A改編臨時委員
         総務省電子政府推進員中部地区委員
  5. 住所:愛知県豊明市栄町上姥子3番地19シャトー桜ヶ丘V-401
  6. 電話番号:0562-92-8720
  7. FAX番号:0562-92-8748
  8. 電子メールアドレス:arata@iarata.com

電子申告普及に向けての意見

<概要>

電子政府の目標値である2010年50%は現在の制度改革程度では実現は困難。これをクリアできる方法を提案する。目先の改善ではなく利用せざるを得ない環境をつくること。

<本文>

6月のパブリックコメント募集でも概ね同趣旨の意見を提案しましたが、この半年の変化を踏まえて再度意見を述べさせていただきたい。
 税理士は電子申告について、税理士会を始め、国税当局との協調の中で電子申告の普及に向けて活発な普及促進のための活動を行っています。
 国税庁が目標とする電子申告利用率における平成18年度の数値目標2%は軽くクリアし、19年度の目標である3%(105万件)も超えることができました。昨年まで0.4%程度の利用率ですから、桁違いの飛躍ということもできます。まもなく到来する平成19年度の確定申告期において、その次の確定申告経過時(平成20年度)目標の8%が一年前倒しで達成可能かどうか、見守りたいところであります。
 確かに、平成16年2月2日に初めて国税庁のサーバーに送信した時から比べると、この4年間では、隔世の感があり、国税庁の改善努力が並々ならぬものであったと言うことが証明されたものと思います。ただし、目標となるパーセンテージの算出方法に変更(カウントすべき手続きが48手続きから42手続きに減り、分母が小さくなった)があったという数字的なマジックもありました。

この主要成功要因は、「代理送信」(納税者の電子署名なしで税理士署名のみで送信できる)を認めていただいたことと断言できます。納税者に電子署名をさせることは日本の社会ではあまりに馴染まず、電子証明書を取得させる行為そのものさえがボトルネックでした。
 この結果、実際これまで電子申告をしようとさえしなかった会計事務所から、今年はどうすればいいのかという多くの質問をいただきました。かなり多くの事務所が電子申告にトライしていただけたものと思われます。全体の電子申告の90%が税理士関与であり、そのうちの70%強が、特定の団体(TKC)経由であるという事実も今後の展開を考えていく上で必要になります。
 しかしながら、所詮一桁前半の利用率です。今だ電子申告を実践しているのは、一部の団体・納税者に過ぎないということになります。
 私自身の事務所も現在は、関与先の100%を目指して電子申告をしています。現実には、紙提出になった方、あるいは飛び込みの方(ID・PWが取れない)を除けば、かなり多くの関与先の申告書を代理送信で電子申告することができてきています。
 昨年の確定申告時は、私自身が納税者の電子署名をいただきに上がるために、関与先を回り、その場でPHSを使用して送信していました。残念ながら事業主と電子申告以外の話で多くの時間を費やしてしまいました。それに比べ、今年は代理送信は事務所で送信可能なため、その時間が省略できました。確定申告の時期に本人署名のために個別に巡回するのは本当に効率が悪いといえます。納税者の署名が必要なくなったという点は、大変大きな改善でした。
 また、添付書類についてはこの度の所得税確定申告から多くが省略の方向で改善されます。18年度の確定申告においては、国税庁の配慮で(名古屋国税局では特に)配布された緑色の封筒(電子申告の別添送付用)は大変好評で、重宝しました。利用率が向上したもう一つの要因であるものと理解いたします。このような細かい配慮は、納税者・税理士の協力しようとするモチベーションの向上を促進します。

しかしながら、まだまだ多くの税理士・納税者が電子申告を躊躇しています。電子申告を利用するためには、さらに多くの工夫が必要です。目標達成のためには、自然に参加していかざるを得ない仕組みづくりを考える必要があります。
 「電子申告は平成19年度の3%はクリアできるとしても、5000円の電子証明書取得控除で達成できるのはせいぜい8%まで。思い切って税目ごとに簡易なもの(消費税)から原則電子受付とすることで22%。10万円の電子申告控除を実現してはじめて50%行くかどうか。」という個人的な粗い予測をしています。

以下に、現在、問題点とされているところを含めた、現場で実際に感じている意見をふまえて、電子政府がより実現しやすい方向になるように、電子申告を中心として述べさせていただきます。

○ 5000円の電子証明書取得控除は目論見が外れます。利用率はこの件によってはそれほど向上しないようです。利用率向上のためには、もっと明確なインセンティブが必要です。

電子証明書の発行現場が追いついてないという現実があります。現在、1市長村窓口で発行できる能力は1日20枚程度。現実には10枚程度の発行という状態を聞き及んでいます。全国に800程度の行政単位があるものとして、単純に計算しても、3月17日までに平日日が残り60日。10枚×60日×800市町村=480,000枚。すでに取得している者を足して、取得してもあきらめる者を差し引くと、ざっくり60万人。この範囲の電子申告の5000円控除適用者となるものと思われます。これは、一部の者の範囲です。
 総務省がいくらがんばって指導しても、これでは電子申告の普及促進には大きな影響力は考えられません。この制度を普及させるのであれば、市役所等の行政窓口の電子証明書発行業務を強化することのほうが優先です。
 そもそも、電子署名をすること自体に、日本の社会にはなじまないものがあり、電子申告の世界は、ID・パスワード程度の本人証明でセキュリティを確保する仕組みを考えていくべきだと思います。
 また、5000円などという中途半端なインセンティブではなく、10万円程度の税額控除を創設し、明確なインセンティブを示さない限り、納税者の飛躍的利用率向上は望めないと確信しています。

○ 国策なのに国策の目標値が明確ではなく、国民に周知されていない。

数値目標を日本税理士会は掲げ、各単位会、各支部に至るまで数値目標を明確にする運動をしています。2010年までに開業税理士の50%が関与先の送信を含めて電子申告を実践しますという目標です。この目標値を作るにあたっても大変な議論がありました。
 しかし、私どもが目標値を設定するのは目標が明確で望ましいとしても、そもそも、国家の目標値・電子政府達成時の予測数値が明確になっていないことが問題です。この点を国税局に確認したところ、各省庁はすべて総務省に早い段階で目標数値データを渡しているという回答でした。しかしながら、電子申告普及運動に深く携わる私の記憶にさえそのデータを拝見できていない。ということは、多くの国民はその存在を知らないといえます。
 具体的な数値による目標なしに、ただ、「国策だからやろう!」では、説明するときに聴衆の気持ちをひとつにできません。2010年の利用率50%が達成できたならば、電子政府構想としていくら国家の経費削減ができるのか?具体的な削減額はいくらなのか?「小さな政府」を目指すのであるならば、最終的にどの程度小さくできるのか?何人人員を削減できるのか?等等。国民はこの点を知りたいと思います。
 また、電子政府構想の掛け声は、小泉政権の下ではかなり熱いものが感じられたが、現在はさめた感じさえ受けることもある。小泉首相の下ではIT担当大臣もいらっしゃった。松田岩夫大臣に直接陳情させていただく機会もいただけました。現場の声を直接トップにお伝えできる仕組みづくりも必要なのではないでしょうか。

○ 実行することによるインセンティブやメリットが明確になっていない。

目標値の提示だけでなく、具体的なメリットの説明が大変弱く感じられます。人間は今までにないことをする場合、よほどの動機付けがない限り簡単には行動に移しません。高尚な理念や国策の方向性も大切ではありますが、利活用率の向上のためには具体的な恩恵が必要です。
 税理士として、同業者を啓蒙するためにいろんなことを考えてきましたが、この度、事務所がどれくらい効率化できたかについて計算をしてみました。反響は予想以上に大きなものでした。私の事務所の数字が、全国国税局長会議の席上に上がったのことです。事前に国税庁の広報や技術の担当者が、遠方の私の所まで面談に来てくださいました。
<これに関する記事抜粋>
 会計事務所の経費節減がどの程度可能かについては、その事務所の規模・経営形態・ノウハウによって様々なため、一概には言い切れないものがあります。しかし、当事務所が平成16年の電子申告当初の申告件数(実験的に数十件)と、平成19年度(予測値=100%電子申告予定)との比較をしたところ、概ね65万円の経費節減がされることが判明しました。当事務所の決算書を4年間比較して、元帳から摘要ごとに推移を出し、試算した結果です。
 実感から業務効率等の向上を考えれば、100万円くらいは経費節減になっているのかとの事前予測でしたが、積上計算できたものは約65万円。しかし、当事務所のような小さな事務所ではなく、大規模事務所であればその額はかなりな大きくなるものと予測され、事務所によっては一人分の給与が節減できる場合も考えられます。間違いなく会計事務所には、大きなインセンティブがもたらされる状態になっているのです。 
 お隣、韓国の場合、電子申告導入当初、電子申告の量に応じて代理人(税務士等)に1件1万ウォン(上限300万ウォン)の税額控除が認められていました。韓国の電子申告利用率が高いのには他にも多くの理由がありますが、これが急速に普及した要因との一つであり、法人税は100%近い利用率です。我国では、直接的な金銭によるインセンティブがもたらされてはいませんが、結果として電子申告による事務所の経費節減を考えれば、事務所に対するインセンティブはあるといえましょう。(名古屋税理士会会報12月号掲載)

○ IT関連組織の活用、IT人材の活用がされていないのではないでしょうか。

情報処理技術者、中小企業診断士(旧制度の情報部門、新制度は合格者は試験科目に情報処理が入っている)などの国家資格者、あるいはITコーディネータの有資格者等を電子政府構想の中で活用するシステムがありません。特にITコーディネータはe−Japan構想中の「IT人材の育成」を目的に設けられた資格であるはずです。しかし、現実にはITコーディネータに電子政府構想や電子申告等の話は特殊な方を除いてありません。
 中小企業経営者や一般納税者のITスキルや知識は高くなく、それを支援してくれる人材がいれば、積極的に参加する層の人口も多いはずです。世の中全体が電子政府構想の中に当たり前のように組み込まれる過程においては、各有資格者に1件支援した実績報告書を特定の組織に提出したら報酬を支払うというような仕組みもあっていいのではないでしょうか。
 また、総務省の中には電子政府推進員があります。税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士・ITコーディネータ・有識者等からなる組織ですが、実質的な活動はありません。WEB上でのミ−ティングルームを設置していただきましたが、こちらも活発には活用されていません。ここで交換された意見はIT戦略本部にまで上程されると伺っていますが、どこまで実効性があるのかわかりません。折角、こういう組織を作っていただいたのですから、予算をしっかり組んで、活発な意見交換ができるよな組織にして、現場の声を吸い上げていただくことを期待しています。

○ 平成16年の電子申告開始当初から申し上げていることではありますが、オンライン3法を見直して、「電子を原則、紙を補助」に法改正するべきです。

2010年の50%目標をクリアするためには、現状のままでは困難です。平成18年度の「代理送信(納税者の電子署名を省略して税理士が送信できる)」、平成19年度の「添付書類の省略」及び来所型電子申告の手法等により、来年の目標値である3%はすでにクリアしているものの平成20年度の8%はかなり厳しい状態であるものと推測しています。税理士のみが代理送信をする権利がある以上、税理士に期待されるのは当然ではありますが、現実には、税理士の全てが電子申告に興味をもち社会の流れに素直に危機感を感じてトライしているわけではありません。パソコンを持たず、インターネットへの接続も拒否する税理士もいる以上、利用率はやがて頭打ちになります。納税者においても、同じです。
 そこで、「電子を原則、紙を補助」にオンライン3法を改正していくべきです。電子政府構築のためには「ある程度の強制力と魅力あるインセンティブ」が必要です。ある程度の強制力を持たせるためには、法律で仕切っていくことになるかと思います。
 電子申告の普及を応援する者として、昨年ドイツの電子申告制度の視察に名古屋税理士会の研究員として行ってまいりました。
 ご存知のようにドイツでは、電子申告の導入は我国より6年ほど早く、その利用率の向上に苦慮していました。しかしながら、この度の視察で、ドイツは2005年1月より法整備をして売上税(付加価値税)と源泉徴収税に限り、受付を電子原則としたために、飛躍的に利用率が伸びたということを確認してきました。罰則規定はないので、この税目については95%とのことです。(残り5%の税理士は、あえて国家に協力したくない税理士ということです。)しかし、それまで長年の間低迷していた利用率が極端に増えたのです。未だ電子を原則としていない所得税は20%で本年度目標は25%ということでした。(税額控除等の大きなインセンティブのないドイツでは電子原則制度を取らない限りこのあたりの数値にとどまるようです。)
 したがって、税目別ごとでも段階的に電子原則にしていかない限り、最終目標値は達成できないと思います。

○ 電子認証の方法だけでなく、国も地方も各省庁も全ての仕様を統一して、あらゆる諸手続きが全て共通の電子署名や汎用性の高い言語で出来るようにすべきです。利用者側にとっては都度都度違う手続きを経ることこそ、最大のハードルになります。国税庁もしくは総務省において、一般的に普及しているエクセルデータをXMLデータやXBRLに変換してe−Taxに組み込めるシステムを開発していただきたい。

現在のままでは、申請手続きごとに、あるいは電子証明書の種類ごとに電子署名手続き方法が異なっていたり、総務省が努力されている公的個人認証による電子署名が使えない場合(e文書法に非対応)もあります。共通の電子認証であれば、その利用頻度も上がりカード取得の価値も増えます。
 また、電子認証問題に限らず、国・地方・各省庁を含めて全て、システムを統一するようにしていくことが急務であります。
 IT言語についても、XML言語を標準とし、全ての受け入れはXMLに限ることに統一すべきです。その上で、日常業務に耐えないソフトウエア(e-TAXソフトは明らか)を作るのではなく、どのような言語も全てXMLに変換して送信できるソフトを開発ください。いま、XML言語の技術者は民間の中小業者でもたくさんいますし、コンペで発注をかければコストも安くできます。
 また、YahooBBが通信料金体系そのものを変えてしまったときの戦略のように、XML変換ソフトを街頭配布や官公庁の窓口、スーパーマーケットのレジ横におくなど、無料で配るようにすれば電子政府の浸透は早まるものと予測されます。ポスターを駅に張るだけでは効果は薄いです。
いずれにしても、これらの思い切った方策を実践するためには、強力な指導力を発する部門が必要です。内閣官房IT担当室がその役をしていただけるのかどうか、機構的な位置づけを理解しておりませんが、IT戦略本部部長が目に見える形で継続的に強力なリーダーシップを取らないと、国家の目標が達成できないことは確かです。

○ 地方税の足並みがそろわないことが、実務の現場から、最大の障壁となっています。

平成22年には検討されると聞いていますが、法人県民税・市民税についても、受付サーバーは国税で受信していただいて地方へ転送するシステムを前倒しに早期実現できないものでしょうか。税額計算の基礎が同じであり、税務処理は一連の流れの中で税額を導き出すのに、受付サーバーが違い、また改めて別々の手続きをするために、地方税を送信することが面倒になり、地方税の電子申告は低迷しています。地方税まで簡単に一括して送信できるものでない限り、電子申告による事務の効率化を感じることは難しいです。地方税の足並みをそろえない限り、国税電子申告の普及の足かせになります。電子政府構想の実現という観点から早急にご検討いただきたい問題です。
 また、法人事業税、法人市民税及び固定資産税の償却資産税については、都道府県と政令指定都市で電子申告が可能となっていますが、私どもの生活する地方都市では対応ができていません。全ての地方税が簡単に電子申告ができなければ、電子化のメリットを享受することは難しいと言えます。税理士は特定の街の関与先を抱えるわけではなく、周辺のたくさんの市町村に及ぶ範囲で業務を行っています。電子で申請可能な街とそうでない街が混在していることが、「全部そろってからはじめるよ。」という参加しない言い訳を生み出します。政令指定都市のみではなく、全国の市町村において地方税の電子申告が行えるよう早急に整備を図っていただきたく思います。
 一案として、受信は国で一括して受け、地方税のデータは、県単位の大型のサーバーに転送する。県の大型サーバーに対して、各市町村はシンクライアントシステムで端末を使って行う。財政基盤の弱い市区町村には、小型端末だけで業務が遂行できるようにしていく。コスト的にもセキュリティ上も有利であり、早急に検討していく必要があると考えます。

○ そもそも、ICカードを電子証明書とすることは、それを読み込むためのICカードリーダライタが必要となります。この購入取得が、大きな障害となっていることは明らかです。(ICカードリーダライタとドライバの問題で電子申告を断念した方も大勢います。)

やはり、急速な普及を果たした、ドイツの例を紹介いたします。ドイツでは電子認証には3種類あり、(1)ICカードを使う方法、(2)ネット上の画面で、ソフトウエア認証する方法、(3)USBメモリースティックにPINをいれて認証する方法です。ソフトウエア認証のほうは画面に従い質問に回答しながら個人情報を入れていき、最終的にオンラインで税務署の認証を受けるというシステムです。USBメモリースティックの方式は最新の方法でPCにUSBメモリを差込、PINで本人確認する方法で、これから普及させるということです。これら手法であれば、リーダライタが不要で、安全性の確保もできます。
 リーダライタは、その購入の問題だけでなく、購入後の使い方、特定のソフトウエアとドライバの相性問題などがあり、PCの操作に不慣れな者にとっては、初期設定段階における最大のハードルになっています。
 セキュリティとユーザビリティは相反するものでありますが、国家の目標に向かって数値を上げていくことを重視する段階では、まず、ユーザビリティを優先させるべきです。
 ICカードリーダライタそのものが不要のシステムを構築すべきです。

○ 全ての申告・納税手続きを受信できるようにし、例外を作らないようにしていただきたい。

特に現場で残念だったのは、確定申告時に行う贈与税の申告です。今回、贈与税の電子申告ができなかったことは業務的に大きなマイナスでした。納税についてはできましたが、贈与税こそは電子申告に適しているはずです。
 また、e-Taxによる源泉所得税の納付書は告知分しか対応していません。たまたま、不注意で源泉所得税の「決定」をいただいたので、e-Taxで電子納税をしようとしたところ「告知分」しかありませんでした。「決定」分ではありましたが、告知分で送信をしました。細かい点まで含めて、網羅性のある受信体制を確立していただきたいと願います。

○ 平成16年当初から感じていることがあります。

平成16年当初のe-Taxのソフトウエアにいくつかのバグ(減価償却をすると残存価格0まで償却してしまったこと、定率減税が上限なしで控除されたことなど)があった件や、現実に少し複雑な処理になると、とてもe-Taxソフトでは処理しきれないという件でも感じたことでありますが、今回も同じような思いをしました。庁の幹部の方々に直接ソフトの問題点についてご質問したところ、「民を圧迫しないために、あえて粗忽なソフトを作成している。」という高邁な政策的意見をうかがったこともありますが、大きな国家予算をかけている以上、これは通用しないお話かと思います。
 平成19年3月7日の夕方頃、常にサーバーがビジー状態になり、サーバーが止まるのではないかという不安をいだいた時期がありました。3月12日の深夜の一時停止でこの問題は解決されたようですが、現場ではかなり大騒ぎになりました。緊急用に紙でも準備しつつ電子申告をするという人もいました。
 3月15日に近づくにしたがって、送信が集中することは当初より予想されているのにかかわらず、受信サーバーがビジー状態になるということは、通常では考えられないことだといえます。最初からあまり送信をしてこないという前提でシステムを開発していたのか、あるいは、当初からパンクしそうになったら容量を大きくするつもりであったのか、いずれにしても担当IT業者の策に翻弄されているかのように思われます。通常の仕様やコストに厳しい民間企業であれば、訴訟問題になりかねません。
 ITコーディネータ仲間での話ですが、チェック機能が働かない相手に対して、「業者としては最初から完璧なシステムを納入するよりも、あちこちに穴を開けておいた方が、それが見つかるたびに美味しい仕事を貰い続けることが出来る。」という大手ベンダーの役職者の本音を聞いたことがあります。
 電子申告制度(電子政府構想)を確実に実現するためには、しっかりしたCIOを頼んで、送信者に不安を抱かせないシステム作りをしていくべきではないでしょうか。

○ 受信側(税務署内)処理業務等の問題点

実際に税務調査の現場や、署職員の方々との接触場面で、何人かの税理士が耳にした話があります。どの省庁でも同じ状態だとは思われますが。
 電子申告といっても、税務署内では今のところ結局紙に打ち出しているので合理化のメリットは無いとか、紙と電子が混在するのでかえって煩雑だとか、別送書類との突合作業が大変だとか、公式には言えない本音があるという現実です。僭越なお話ですが、電子政府構想の重要性を公務員の方々から理解し、率先垂範していただく必要があるものと思います。
 現場担当官の方々の大変さもわかりますが、署幹部の方々の熱き思いとの温度差を相変わらず感じています。この点についても、平成19年度より、公務員も5000円控除ができることで、自ら電子申告をしていただき馴染んでくることで解決される可能性もあります。税理士や納税者に電子申告の推進をお願いする立場の公務員全員の確定申告を期待いたします。
 たまたま、現在、税理士会支部支部長として税理士会員になる方々の登録調査をしています。新しく登録する方々の面談をしていくのですが、その中には数日前まで課税庁側の役職であった方々も多くいらっしゃいます。課税庁側の(たとえば税務署長)役職でいらっしゃるときは、各税理士を戸別訪問するほどに「電子申告をお願いします。」とおっしゃっておきながら、退官して数日後、税理士側になったとたんに、「電子申告は見合わせる」発言をされる方もいらっしゃいました。課税庁内の電子政府に対する啓蒙をもっとしっかりやるべきです。国策の意味をOB全員が実践で対応していくようにならないと、いつまでたっても税理士が電子申告普及の障壁になってしまいます。
 私ども税理士会はそれに対して無策ではなく、名古屋税理士会ではユーザ会という団体を通じて「初心者のための電源から入れるパソコン教室」まで開催しています。もちろん、電子申告の研修会も数多く開催しています。しかし残念なことに、大きな会場で「電子申告」を講演しだすと、数十人のOBと思われる方々が研修会場の席を立ち会場をあとにされる経験を何度もしています。まずは、公務員側の意識改革が急務です。

○ 私ども税理士に限らず、士業団体が運営する電子認証局については、「会員名簿」に基づき会員に対してその資格にかかる電子証明書を発行できるようにしていただきたい。

士業団体では、各士業法に基づき、名簿に登録された者に対して、紙での資格証明書を発行しています。そのためには既に厳しい審査を通過しています。(支部の支部長になってからは、登録調査の厳密さを体験している)にもかかわらず、特定認証局であるゆえに改めて厳格な審査をしてICカードの発行をしています。このために、電子認証に馴染まない高齢な税理士と認証局側において軋轢が生じました。認証局不用論まで根強くあります。たしかに、登録時申請で同様の手続きをしているにもかかわらず、認証局の手続き段階で審査拒否の問題が起きてしまう等はお互いに無駄な行為になってしまいます。
 そこで、士業団体が運営する電子認証局に対しては、現行の特定認証業務ではなく、士業団体の実態に即した新たな認定基準を創設していただきたい。そして、新基準においては、士業団体に備える「会員名簿」に基づき、電子証明書を発行可能と認めていただきたい。
 この度、税理士の代理送信により一気に1年だけとはいえ、国家目標をクリアしたという事実を考えれば、行政手続の代理代行のプロフェッショナルである士業資格者が、当然のごとくスムーズに電子申請を選択するような環境を整えることは、電子政府の実現に直結するものです。
 さらに、将来的には、国が認証局を構築し、代理行為の認められる始業団体への電子証明書の発行業務をするべきではないでしょうか。国家資格である以上、その国家資格を電子の世界で認証するのは、やはり行政の問題だと思います。国家資格認証局という外郭団体で運営するのもいいかと思います。資格区分は枝番変更だけで容易にできるはずです。

○ 電子申告を受け入れる社会環境の整備について

平成16年の当初に比較すれば、社会環境も変化し改善されてきてはいますが、いまだに、地方公共団体や金融機関での窓口では、収受印のある申告書控の提示を求められる局面があります。PRの先として、まずは、電子申請に使用後の書類を受け入れる側に、電子政府に対する積極的な協力体制をつくっていただくよう指導していただきたい。
 平成19年度確定申告より「電子証明書制度」が導入され、今後はこれをもって従来の受付印の役割をしていくということです。もちろん大きな改善でありがたい話ではありますが、そもそも、諸関係機関の受付側が電子申告による書類の認識をしていないことが問題です。先日も、UFJと口論がありました。民間ソフトウエア会社(TKC)が親切に電子申告証明書を発行するシステムを開発してくださり、それを添付していたにもかかわらず、「電子申告システム自体が信用できない」ということで、他に問題のない関与先の融資が遅れた事例があります。担当者の能力・意識の問題なのかもしれませんが、窓口担当者にいたるまで、電子政府構想を浸透させていただかない限り、現場の混乱は今後も発生するものと予測されます。
 また、資本力があり、人材の豊富な大企業が電子政府構想に真っ先に協力していくべきであり、資金的にも厳しく、IT人材が全くいない中堅中小企業にさきに申告・申請業務を推奨していくことは無理があると思われます。大企業へも個別に依頼され、あるいはマイクロソフト等の研修会を開いて大企業への啓蒙はしていらっしゃることは聞き及んでおります。まず、大企業が当たり前のように電子申告等をこなしていき、社会の情勢として当たり前のように中小企業が追随していく形にしていかなければ、中小企業への負担は何かと大きくなるのではないでしょうか。

○ 電子納税について、積極的に推進しようとされているが、根本的な問題点があります。

現在、大規模法人若しくは、税理士会の支部集会等で毎回のように源泉所得税の納付を電子納税するよう勧奨が行われています。
 平成19年度申告より、紙の場合に納付書を銀行に持ち込めばいいのと同様に、源泉所得税の徴収高計算書においても、また、初期登録時点においても電子署名を付さなくても納付できるように改善されます。この点については大きく期待できるところであります。
 しかしながら、根本的に電子納税が進まない理由があります。源泉所得税の納付書の作成・送信は申請であり申告ではなく、実際に納税があって初めて完了する仕組みであります。そのため、源泉所得税の申請即電子納税をするためには資金的なの事前準備をしておく必要が生じてしまいます。これは企業の支払事務(10日払い・月末払い等)を考慮していないものであります。よほど潤沢な運転資金がない限り、申告即納税はできないものです。法人税、消費税等の納税も同様です。
 マルチペイメントネットワークシステム(以下「MPN」)の問題もあります。税務署の指導は、ネットバンクを利用している企業は即、電子納税可能と言う言い方をされますが、ネットバンクの利用と納税までの間にはMPNの問題があります。MPNは現金同等の即日決済システムであり、資金繰りを優先している一般納税者の都合は考慮されないシステムであります。申告即納税は自転車操業の中小企業にとっては過酷過ぎます。
 したがって、MPNシステムにおいて、納税に関しては支払者が予め納付日を予約出来るシステムに変更していただければ、かなり多くの納税者が利用するものと考えられます。
 また、所得税・消費税の場合は、振替納税があります。申告日より1ヶ月後に口座から自動落ちするシステムで、従来はこれを推奨していました。しかし、電子納税をするのであれば、申告書の提出即納税となりますので、当然、通常は振替納税を選択します。
 したがって、MPNでシステム的に納付期限を相当程度延長(できれば振替納税と同様に)できるようにすることで、納税者が積極的に活用することが予想されます。

○ 模擬サーバー若しくは、練習ID・PWをつくるべきです。

平成16年2月の電子申告制度導入以前から、懇願していることではありますが、送信練習する体験ができないと言う問題があります。申告書等の作成手順については、カーソルをその通りに動かせばできるデモソフトを作成していただいていて、ありがたいのですが、一番電子申告において疑心暗鬼になりかねない、送受信については練習ができません。
 したがって、税理士・納税者がテスト送信可能な環境を設けていただきたいです。研修もやりやすくなります。例えば、「国税太郎」という名前で、利用者識別番号の何番から何番までを自由に使えるようにしていただければ、研修会等で練習に使うことが可能となります。16年当初、各地の講演で実施に送信することを求められ、自分の申告を講演の度に何度も送信しました。その度に、所轄署の担当者からお叱りをいただいた記憶があります。
 ここでも、先進国ドイツの事例を紹介します。ミュンヘン第一税務署を訪問した際に、電子申告の専門官から、その場で実際にインターネットにつなぎ、プロジェクターで電子申告の手続き画面の説明をしていただきました。スクリーンに映された画面は、職員練習用のテスト版で、一般には公開されていないものとのことでした。しかし、少なくとも署内職員が納税者を指導するに当たり、送信の体感を学んでいる必要がある以上、税務署の職員は送信体験ができるように、練習用のID・PWを配布されているとのことでした。擬似サーバーまでは用意していないとのことでしたが、送信体感が必要であることについては間違いありません。

○ 平成19年度の電子申告控除創設は、公的個人認証による電子署名等を取得することを前提としていますが、納税者が公的個人認証を取得すること自体に問題が多くあり、折角のインセンティブが生きてこない可能性があります。

住基カードが10年の期限で、公的個人認証が3年ということは、3.3.3.1のタイミングでICカードの更新時期が来ることになります。その度に電子証明書の更新が必要ということで、納税者に大きな負担かけます。おそらく、5000円控除は1回限りですから、少なくともインセンティブ目的の方々は1度電子による申告をすると思われますが、その後の更新にコストがかかるのであれば、やはり紙に戻すことが想定されます。電子証明書の更新をかけたら、国税庁サーバーの中のe-Taxの方もやはり更新手続きをしていかないといけないことになっています。
 さらに、昨年までの手続きの中で、何がネックだったかというと、公的個人認証の取得が上げられます。代理送信により、110万件もの申告になったのであって、昨年と同様の制度であれば、昨年とあまり変わらない利用率になっていたと思います。中小零細業者には市役所へ行く時間、発行されるのを待つ時間が惜しいのです。私どもはダメというのを聞かず奥様を行かせて窓口で大喧嘩してきて結局取っていただけなかった事例もあります。金額より時間、手間隙の問題を納税者の視点で改善しない限り公的個人認証の普及は難しいと言えます。
 公務員の方々は、年末調整で終わるため、電子申告の指導をしている方々でさえ、電子証明書の取得をされていない場合もあります。その手間隙がわからないという話もよく聞きます。私は、「公務員全員電子申告すべし!」と各機会に主張していますが、「電子社会・電子行政戦略会議」でもパネラーとして発言させていただきました。公務員が電子証明書の取得すらしないで、利用率向上を国民に求めるのは問題だと思います。
 そもそも、実印であれば、改印しない限り無期限有効です。オンライン3法で「紙と電子」は同様と位置づけにしたのであれば、なぜ、紙申請のときに添付しない実印や印鑑証明書をつけるのでしょうか。また、実印と同じ扱いであれば、なぜ電子証明書は3年ごとに更新しなければならないのでしょうか?実印は住所変更しない限り変更しません。それが電子署名というものなのですが、一般納税者にそれを納得させることは困難性が生じます。もちろんセキュリティ等々の理屈が出てくるのですが、要するにIT企業の商魂に踊らされて税金の無駄遣いをさせられているだけのような気がしてなりません。

○ 電子政府実現のためには、住基カードと公的個人認証の問題を、柔軟に考えて対処していかない限り、最大の障壁になります。

公的個人認証を使わないで法人が申告するのであれば、「商業登記の証明書」が有効です。相対的にコスト高なので、関与先には進めませんでしたが、リーダライタがいらず、代理取得可能な商業登記の証明書は大変メリットがあります。金額が下がればなおありがたいし、むしろ、無料にしていただきたいところです。
 商業登記の証明書だけでなく、公的個人認証等の電子証明書は無料配布すべきです。おそらく、既にレガシーシステムといわれるようになってしまった古いシステムにいままでかけてきたお金よりも、国民全員に電子証明書の無料配布したほうが安かったのではないでしょうか。今後も、ハード的な新しさを求めるよりは、電子証明書の無料発行に予算を投じたほうが、利用率向上には近道であるものと考えます。
 さらに、納税者に電子証明書を取得してもらう為には、電子証明書とキラーコンテンツとの合体の必要性があります。ICカードのキャパはかなりあります。公的個人認証程度の情報を入れておくには容量があまりすぎる。50Mプールに塩を一つまみいれて、海と同じだ!と力説しているようさえに感じています。
 市民カードを発行している市町村があります。更新と同時に、住民票と印鑑証明が簡便に取得できる”市民カード”を無料で別に交付しているようです。これなども住基カードに格納したり、公的個人電子証明書にて文書への電子署名・検証ができるようにすべきだと思います。さらに、運転免許証・保険証・銀行の通帳、パスポートなどなど、全部入れて財布のなかにカードは1枚ですべてたりるようにすれば、ほとんどの納税者は取得する気になるでしょう。生活していくうえでイヤでも使うことになるわけで、そうしない限り、ワザワザお金と時間をかけて意味もなく取る人はほとんどいないと思います。
 これらの問題を解決するためには、IT戦略本部の主導で、各省庁の壁を取っ払って、ICカード一枚に国家の思いを全ていれるくらいの意気込みを示していただきたい。
 タイムリーな話題として「年金や医療保険、介護保険の個人情報を一元的に管理する「社会保障番号」を11〜12年度をめどに導入し、ICチップ入りの「国民サービスカード」(仮称)を全国民に1人1枚ずつ配布する方向で本格的な検討を始めた。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)と連携させることで今後は年金記録の入力ミスはなくなるとしており、国民は年金記録や健康診断結果などをパソコンでいつでも見られるようになる。」という記事を見ました。社会保険庁の問題からこのような考えを発表されたのですが、2011〜12年度をメドといわず、2010年50%の電子申告目標のためには、明日からでも早急に検討していただきたいところです。

 

○ ソフト開発業者(ベンダー)の実力差が歴然としている。

電子申告業務において、e-TAXソフトが業務に使えないほどのソフトウエアであることについては、国税局担当官も講演でお話されているほどのものであり、ここでは論外とします。税理士は日常業務においてどこかの民間ソフトウエア業者(ベンダー)と提携し、電子申告業務を行います。
 昨年は、私どもの税理士会支部において100名以上の関係者を集め電子申告研修会を開催しました。この時、各ベンダーにも7社参加いただき、プレゼンテーションをしていただきました。ベンダー各社の電子申告に対する対応の差が大変よく理解できました。
 冒頭の説明文にも書きましたが、全体の電子申告の90%が税理士関与であり、そのうちの70%強が、TKCシステム経由であるという事実があります。TKCの場合はその業務処理は簡単で、通常の会計処理からシームレスにボタンを押していくだけで電子申告が可能です。しかしながら、他のシステム(いろいろ試してみた)では、画面上で複雑な操作を要するものもあります。このあたりの格差についても、行政から指導して、各べンダー傘下の税理士が平等に電子申告に取り組めるような環境作りになるように、ベンダーを集めて行政指導をしていただきたいと思います。

誠に僭越なことばかり、列挙いたしましたが、「電子政府構想を一日もはやく実現させることこそが、日本の将来のためである。」と真剣に信じて、日々行動している者の意見であります。関係者各位の弛まないご努力を承知の上で、現場の声を申し上げました。何卒ご高配の程よろしくお願い申し上げます。

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